高齢化社会が進む中、いま多くの家族が直面しているのが「親が認知症になった途端、実家が売れなくなる」「親の口座から医療費が引き出せなくなる」という資産凍結のトラブルです。
こうした事態を未然に防ぎ、親が元気なうちから死後の相続までを一気通貫でサポートできる仕組みとして、近年急速に注目を集めているのが「家族信託」です。
従来の制度にあった「使いにくさ」を解消するこの仕組みについて、その基本と特徴を解説します。
家族信託とは、一言で言えば「財産の所有名義と、実際の管理権を切り離し、信頼できる家族に託す仕組み」です。この仕組みを理解するために、まずは登場する3つの役割を押さえましょう。
● 委託者(財産を託す人)
財産の元の持ち主です。一般的には「親」がこれに該当します。
● 受託者(財産を預かって管理する人)
親に代わって、実際に財産の管理や運用、処分を行う人です。一般的には「子ども」が選ばれます。
● 受益者(財産から生じる利益を得る人)
管理されている財産から出る家賃収入や、切り崩した預貯金を受け取って使う人です。通常は「親自身」をセットします。
80歳の父親(委託者)が、長男(受託者)と家族信託の契約を結んだとします。
このとき、アパートの管理名義は長男に移りますが、そこから入ってくる家賃(利益)を受け取るのは父親(受益者)のままです。そのため、父親に税金面での大きな負担(贈与税など)は発生しません。
最大の違いは、将来もし父親が認知症になって判断能力を失ったとしても、長男の判断でアパートの修繕や、父親の介護資金を作るための実家売却がスムーズに行える点にあります。
これまで、認知症対策や相続対策としては「遺言」「生前贈与」「成年後見制度」が使われてきましたが、それぞれに実務上の高いハードルや制限がありました。
家族信託が「自由度が高い」と言われる理由を、他制度の限界と比較してみましょう。
● 特徴:自分が亡くなった後の財産の行き先を指定できる。
● 限界:あくまで「死後」の財産処分を決めるもの。生前に認知症になってしまった場合の財産管理や、実家の売却などには一切対応できない。
● 特徴:元気なうちに財産を子どもの名義に移せる。
● 限界:まとまった財産を移すと高額な贈与税がかかる。また、親の手元から財産がなくなるため、親自身の老後資金が不足するリスクがある。
● 特徴:認知症になった後に、裁判所が選んだ後見人が本人の財産を守る。
● 限界:財産の「保護」が最優先されるため、家族であっても資産を柔軟に運用(実家のリフォームや売却、相続税対策など)することが極めて難しくなる。また、専門職が後見人になると毎月の費用(報酬)が発生し続ける。
家族信託は、本人が「元気なうち」からスタートし、「認知症になった後」の管理を家族に委ね、さらに「亡くなった後」の財産の引き継ぎ先まで、たった一つの契約で一貫してデザインできます。裁判所の干渉も受けないため、家族の事情に合わせた柔軟な財産管理が可能です。
非常に万能に見える家族信託ですが、あらかじめ知っておくべき注意点もあります。
それは、「本人の判断能力がしっかりしているうちしか契約できない」という点です。すでに重度の認知症が進行しており、契約内容を本人が理解できない状態になってからでは、家族信託を利用することはできません。
また、家族信託は財産管理に特化した制度であるため、本人の介護病棟への入所手続きや医療行為の同意といった「身上保護(生活や医療の手続き)」の権限は受託者にはありません。
家族信託は、大切な財産を凍結から守り、家族の力で円滑に未来へつなぐための極めて有効な選択肢です。
遺言や成年後見制度のデメリットを補う柔軟性を持っていますが、手続きには専門的な法務・税務の知識が不可欠となります。親が元気なうちに家族で将来の希望を話し合い、早めに専門家へ相談を進めることが、トラブルのない資産承継への第一歩です。
初回のご相談(60分)は無料です。
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